このコーナーは東洋の古典から神髄部分を抜き出し、現実生活の指針として役立てようと思い開設しました。


 『嚶鳴館遺草  巻四 管子牧民国字解』     細井平洲 3

 「家国が傾くと云うは、政のあしきゆえなり。政のあしきというは、不徳なる人に政をさすゆえなり。よき政をせんとては、徳のある人を用うる外なし。徳ある人とは仁心ある人のことなり。仁心とはおとなしき心なり。おとなしき心というは爵位の尊にも誇らず、一身の安楽を願わず、わが身一つは死しても生まれても君のため民のためになりて、一人の身をもって万人を済くわんと思う大器量なる人をいうなり。おとなしき人はおのれ一人が知恵才覚振るいて、おのれ独り手柄をせんと思うようなる小さき志はなきものゆえに、われならぬことは、なる人にさせ、わが思案に及ばぬことは思案に及ぶ人に相談するすること故に、一人にて百人千人の千恵も持ちよりになりて、何事も成就することなり。
 不徳の人というは不仁なる人なり。不仁というは尊き位におれば威勢権柄にたかぶり、一身の栄花をのみ心がけて、君のため民のためを思わず、人は倒れても、おのれ一人は立つ心にて、手柄を人にさすれば残念に思い、われ一人の功を立てんとのみ思うて、ならぬこともなる振りにて、今日をやりつくるものゆえに、たといその人小才覚ありて、小利口に立ち廻るといえども、ただ一人ぎりの知恵分別にて下に幾百人の忠臣謀士ありといえども一言も出されず。さすれば百官百司を備えても、一人も同様にて、はてはては民にうとまれ、国をとりみだすこと古今一般なり。烏を鵜の代わりに使いて水をのまするは烏の罪にあらず。かたちの似たるより見あやまりたる使う人のとがなり」

 国家や組織が傾くというのは結局は上に立つ人の資質によってそうなるのである。私利私欲を捨て、自分のことよりもまず住民・部下の幸せを願い、人々の知恵を集め任用し、協力を得て進めるならば何事もならぬということは無いものである。
 自分の才覚におごり、人の知恵を見下し、権力をほしいままにして、自分の名誉・地位のために手柄を一人占めにするような人を不徳の人と言い、国を乱す本となるものである。これらはすべて指導者の資質を見誤ることから生じるのであって、烏を鵜の代わりに使って魚を獲ろうとしても水を飲むばかりなのは、烏が悪いわけではなく、すべて使い手が烏と鵜を見誤ったことから生じるのである。
 まさしく『組織の盛衰は人にあり』で、強い組織には必ず『人物』がいる。人を活かす指導者がいる。逆に弱い組織の指導者はその原因が自分のどこにあるのかを、第三者の目で冷静に見つめることができなければ、組織を強くすることはできないということであろう。 「自分の弱点を見つめる勇気」 肝に銘じておきたいものである。