心に残る文章

            

             私が生涯の師として仰ぐのは、母校氷見高校ハンドボール部を国体3連覇に導いた、
     金原 至 先生である。
      先生の言葉は一つ一つ私の血となり肉となって、現在の私をつくっている、と言っ
     ても過言ではない。どんな逆境に立たされても、力強く、正々堂々と王道を歩むこと
     を、自分の力で生き抜くことを、先生は教えてくだされた。
      今ここに、金原先生が5年前に恩師荒川清美先生を偲んで執筆された一文章がある。
     私と同じ思いを先生も抱かれながら生きてきたんだなと、感慨を深めている。
     その文章を皆さんに紹介したいと思う。


        恩師荒川清美先生を偲ぶ  金原 至


           "がんばりましょう!がんばりましょう!"懐かしい掛け声である。今は六十路に差し掛
          かろうとしている私であるが、暮れなずむグラウンドの彼方に向かって大声で叫びたい言
          葉である。若かりし頃の強烈な体験であり、ひたすら頑張り通す者のみが残れる世界では
          なかったか。
            荒川清美先生、その道程は"炎の道"とも言えるものでしょう。一つのことを成し遂げよ
          うとする者の信念は偉大な影響を持つものと今更ながら痛感しております。先生の心から
          出た数々の言葉は、胸を突き上げる熱い塊です。
           「石の上にも3年」「仏の顔も三度」「乞食の子でも三年経てば三つになるではないか。
          にもかかわらず、君達はなんだ。全然成長の跡が見えないじゃないか。どうしたらひとか
          どの選手になれるんだ」そして最後には「行住坐臥がだめなんだ」
            "行住坐臥"何のことかさっぱりわからないこの言葉。ただただ師の迫力に押されて「ハ
          イ、ハイ」と言っていた一年坊主の頃。それが不思議なことに、繰り返し耳にするとわか
          ったような気になる。まさしく"石の上にも三年"である。これは、禅の言葉で、歩くも、
          行くも、座るも、寝るも、つまり生活の総てを意味する深い修行の道であるらしい。
            そして更に曰く、
          「一流選手になるためには、ハンドボール一筋に青春をかけることだ。普段の心がけと日
          々の問いかけを大切にし、懸命に取り組むことなんだ。」
            今にしてみれば、当時のチームの意気込みは見事だった。誰もが物事に対決する気迫に
          満ちていた。あの真剣な態度には恐ろしささえ感じたものだった。あれほどまでに熱中で
          きた青春が私どもに与えられたことを、ありがたく思い、感謝の気持ちでいっぱいです。
            重ねて曰く
          「スポーツは模倣ではなく、自立なんだ。一人一人の個性が一番大事なんだよ。君達は自
          らを自らの手で、まだまだ磨かねばならない。体が独りでに動かねばだめなんだよ。どれ
          だけ素質があっても、練習に耐えねばだめなんだよ。絶対に負けない自分の型を作ること
     だよ。」
            先生の熱い言葉が、私どもの心の中で一層熱を帯び、今なお生き続けております。
          急速に進展してきた文明社会の中で、若者は快適な生活を享受しているが、自立の道を閉
          ざし、物事に挑戦しようとせず、依存と自立の谷間であがいている。確固たる目標に向か
          って汗することを教えてくださった先生との出会いに、感謝のほかありません。

            どうだろう。  私の恩師、金原至先生の文章。  自然にこうべが垂れ、涙が流れてくる
          のである。