このコーナーは、ハンドボールを実際に行う場合の実践的なテクニックを、 簡単に解説したものです。言葉ではなかなか言い尽くせないことが多いのです が、練習の参考になれば幸いです。              フットワーク  フットワークはハンドボール競技を行なう上での基礎であり、選手の将来性 までも決定づける最も大きなファクターである。韓国女子ナショナルチームが オリンピック二連覇という偉業を成し遂げたことは記憶に新しいところだが、 小さいチームが大きいチームを倒すにはスピードとプレーの正確さと勝負感が 何よりも重要であることは異論の余地の無いところであろう。  そして、そのスピードとプレーの正確さの土台となるのがフットワークであ る。韓国ではこれが小学生からナショナルチームまで同じやり方で徹底されて いる。 立山アルミの金明恵コーチが良く「こんなことは韓国じゃ小学生だってやって るよ」と言うことがある。そのちょっとした言葉の裏に、韓国における高度な 技術屋集団の広がりを見せつけられる思いがするのである。  小学生に過酷なトレーニングを課すことは、儒教の国韓国ならではであろう。 (上下の関係が厳しく、コーチの言うことには絶対服従しなければならない) 日本においては中学生レベルから本格的にフットワークのトレーニングに入る のが望ましく、小学生には、すばらしいプレーヤーのマネをさせたり、ゲーム をさせたり遊びの部分を活かすことによってより「ハンドボールを楽しませる」 ことに重点を置いた方が良いと言える。    フットワークを練習する上での注意点は、指導目的によって様々で    あろうと思うが、特に次の3点について注意していただきたい。  1,膝(ひざ)をやわらかく使う  2,ステップを大きくする  3,1歩を早く(速く)する  1,は横への変化には特に重要になる(フェイントは縦の強さと横への移動   の速さによって決まる)。従って、サイドステップや45度ターンダッシュ   などは膝をしっかり曲げ、重心を低くすることがポイントである。ただし、   ただ足を曲げるだけでは意味が無く、そこに強度と柔軟性を持たせねばな   らない。ターンのスピード、切れ味などをチェックしながら練習する必要が   ある。  2,は案外見落とされがちであるが、守備範囲・攻撃範囲を広げるうえでた   いへん重要な点である。良いプレーヤーの歩幅を良く観察していただきた   い。ここぞ!というときは、目いっぱい大きく踏み出しているのが良くわ   かるであろう。    同じフェイントにしても、1歩の幅が大きい選手ほどディフェンスをか   わすバリエーションが多くなるし、フォローディフェンスにしても早く、   強く出来るから全体のディフェンスがぐっとしまってくる。    “自分の歩幅をもっと広げよう”という課題を選手自身に持たせ、自主   的に限界に挑戦していく姿勢が必要となってくる。これは、「いつものス   テップ、いつもの練習」ではなかなか解決できる問題ではなく、選手と指   導者が互いにコミニュケーションをとりながら解決していただきたい。 3,はゲームの中においては“勝負感”として現われてくることが多い。つ   まり、パスカットやディフェンスの詰め、ルーズボールの奪い合いなどが   そうである。    しかし、いかに感が良くても実際に足が出なければ話にならない。しか   も、相手より早く………。まず第1歩を誰よりも早く踏み出すことを心が   けよう、そして、頭で考えるよりもずっと早く足が出るようになるまで、   反復練習を行なおう。             パス・キャッチ  ボールを扱う競技で最も重要なことは、パスを正確に行ない、確実にキャッ チするということであろう。とにかく、これが出来なければプレーが前へ進ま ない。どれだけすばらしいフェイントを仕掛けても、キャッチミスをすれば全 てが水の泡となる。そこまでプレーをつなげた同僚の努力が全て無になってし まうのである。  従って、パスキャッチの練習はフットワークと同じくらい時間を割いて行な うのが理想である。    パス・キャッチ練習の注意点として次の5点を挙げてみる。  1,パスした後の位置取りを早く  2,視野を広くする  3,まずはキャッチ  4,ボールをもらいに行く  5,短い時間を集中する  1,については全てのパス練習について言えることだが、「パスしたらすぐ   にもとの位置にもどる」。多くはステップバックしてもどることになるが、   これをまず徹底させるところからはじめたい。    パスした後、自分のパスの行方をいつまでも見ていて、次の動作に移る   のが遅い選手が多い。実戦では、パス動作でディフェンスに近づくため、   パスした後すぐにステップバックしてディフェンスとの距離を取り、シュ   ートチャンスをうかがう。    パス相手からの切り返しも考えられるので、もどりは早ければ早いほど   臨戦体制を早く整えられる。    また、パス後のステップバックでディフェンスの視野から自分の姿を消   すことによって相手の不意をつくことが出来る。あるいは、ディフェンス   との距離をとることによって視野が広がり、ディフェンスの薄い場所をす   ばやく発見し、攻めることができるようになる。  2,パスをする時、パス相手を見ながらパスをすると、ディフェンス側から   見てそのプレーヤーに脅威はない。なぜならば、そのプレーヤーはパスし   かなく、シュートやカットインに変化する恐れがないからである。従って   次の動作に移れる。    ディフェンスを見ながらパスをしたらどうだろう。ディフェンスは攻撃   される危険を感じ、その地点に釘づけになってしまう。また、パスした後   もディフェンスの顔を見ることによって、よそ見をしていればそこへ走り   込んで陣型を崩したり、シュートを狙ったりできる。    相手陣地にスキは無いか、ボールが自分の手から離れる瞬間まで、あら   ゆる攻撃チャンスをうかがうことが重要である。   (「見る」という動作には、ある1点をじっと凝視することと、全体をぼ   ーっと眺めるということがある。ハンドボール競技においては後者が良く   使われ、効果的なようである。つまり、自分のみているところは相手も見   ているから、勝負どころは目の端っこでちらっととらえる)  3,キャッチミスをする人はよくするし、しない人は余りしない。これは、   性格的なものが影響しているようである。キャッチする瞬間にもうキャッ   チしたと思い込み、次のプレーに移ろうとしている場合にキャッチミスが   良く起きる。    キャッチしなければプレーが続かないわけだから、キャッチミスをよく   する人はまずキャッチするまでボールをよく見る。それから次のことを考   えるように指導する必要がある。    ワンマン速攻のとき、キーパーとのタイミングが合わずにキャッチミス   を犯す場合がある。その原因の多くはボールを見ながら走るということで   あり、この時に限って言えば、まずハーフまでダッシュ、それから振り向   くようにしたい。なぜならば、キーパーは全力で走るプレーヤーを想定し、   その前へボールを投げようとするからであり、ボールを見ながら走っては   スピードが落ちるからである。  4,常に実戦を想定しパス練習を行なう必要がある。そのためにはパスをす   る前の動きと、パスをした後の動きが重要になってくる。    相手からのパスは必ず前へ出ながらもらう(パスをもらいに行く)よう   にしよう。これは、次の動作へすばやく移るためである。止まってもらっ   たり、相手から離れながらもらっていては、次の攻撃動作に移るのに時間   がかかり、一瞬を争う場面ではディフェンスを固める余裕を与えてしまう。  5,パス練習において、1個人がキャッチしてパスをするまでの時間は1秒   内であり、それが全部で何回行なわれるであろうか。「ラスト何本」がか   かれば、なおさらそうであるが、1人の行なうパス練習の時間は本当に微   々たるものである。ゼロコンマ何秒を集中できないで、どうして1試合を   闘うことができるであろう。    1本のパスミス、キャッチミスが勝敗を決する場面なんてザラにある。   ノーミスのゲームそのものがほとんど無いのであるが、これを減らしてい   く過程が勝利を得る過程につながるのである。              ディフェンス  強いチームとはどんなチームであろうか。いろいろな捉え方があると思うが 「ディフェンスの強いチーム」と言ったら間違いであろうか。  これは強い、と思われるチームはだいたい失点が少ない。点の取り合いにな り、バタバタの試合になるといったことがあまりない。つまり、しっかり守っ て相手を自滅させ、そのスキに得点すると言った勝負の哲学みたいなものを身 につけている場合が多いのである。  また、力の劣るチームがより強いチームに勝つためには、ロースコアの試合 に持ち込むことが大前提となる。相手の攻撃を封じ込めるディフェンス力が必 要になってくるのである。  立山アルミの金明恵コーチは、「どうしたらディフェンスを強くできるでし ょうか?」の問いに、フットワークとコンビネーションの重要性を主張された。 攻撃側は守備側よりも常にワンテンポ早く動作を行なうため、そのスピードに しっかりついていくだけのフットワークがどうしても必要になる。70の力の 攻撃に対して、守備は100の力が必要とされるのである。また、多人数の場 合は1対1では守り切れないので、効率良く(ムダ無く)守る連携プレーを工 夫する必要がある。    ディフェンスの練習時においては、次の4点に注意しよう  1,前へ早くでる  2,サイドステップを大きく早く  3,となりに早く渡す  4,常に声を出す  1,相手にスピードをつけさせないためには、スピードがのる前に変化させ   る(あるいは当たる)必要がある。守備側は攻撃側より一歩早く位置取り   を行ない、次に来る横の変化に対応する準備をしなければならない。相手   の縦のスピードを殺せば横への変化には充分に対応できるはずである。  2,かと言って腰が浮いていれば、言い替えると歩幅が小さいと、相手の横   の動きについていくとき、足がクロスしたり、後から抱える格好になって   しまい、差し込まれてしまう。従って、横の動きはステップを大きく踏み、   第1歩を早く踏みだすことを心がけたい。  3,試合中、相手の動きにあわせて自分のマークが目まぐるしくかわる。自   分の守備範囲から離れようとしてしている相手は、早めにとなりのディフ   ェンスに渡さないと2対1で攻め込まれる恐れがある。    また、確実にとなりへバトンタッチするために、チェンジの声をしっか   り出す必要がある。となりのディフェンスのところへ自分がマークしてい   た相手を持っていって「こいつを見てください、私はあいつを見ますから   」と手渡しするのが礼儀というものではないだろうか。  4,人間の視野は180度しか無い。あとの180度は何が起っているのかわから   ないのである。攻撃側の位置を正確に把握するためには、お互いに声を出   し合ってブラインドの部分を無くす努力をしなければならない。(逆に言   えば攻撃側は常にディフェンスのブラインドの部分を攻めれば良い)    また、マークの声を早めに出すことによって、お見合い(隣同士どっち   が出ようかと迷う)を避けることもできる。                                     フェイント  フェイントは攻撃するときにどうしても身につけねばならないテクニックで ある。ディフェンスをしていて最も怖いと感じるのはどういう時だろうか。個 人差はあると思うが、マンツーマンで抜かれて得点されるケースではないだろ うか。そこには自分の責任しか無いからである。  攻撃側にとって「フェイントが切れる」とどういうメリットがあるだろう。 いつでもあいての陣型を崩すことができる、警告や7 スローを奪うことがで きる、などメリットはあってもディメリットなどはない。これさえしっかりで きていれば、コンビネーションなど無くてもある程度は闘うことができるので ある。    フェイントの練習では次の4点に注意しよう  1,自分の間合いをしっかり取る  2,縦に強く、横に早く  3,相手の後ろへ回り込む  4,左右、行なう  5,逆方向に重心をかける  1,フェイントはかけるタイミングが一番大事であり、ディフェンスに遠す   ぎても近すぎてもうまくかからない。おおよそ1.5mくらいとされるが、   体格によってもスピードによっても違う。自分に一番合った距離を早く見   つけ、常にその距離でプレーができるようにする。  2,縦のスピードが強ければ強いほどディフェンスは釘づけになる。従って   横の変化が生きてくる。最初はチャージングが多いかもしれないが気にす   る必要はない。チャージングを恐れてはフェイントの上達は無い。逆にチ   ャージングされるのが怖くてディフェンスが逃げるくらいのスピードが良   い。  3,実戦では1人フェイントで抜いても次のフォローディフェンスがいる。   次のディフェンスに捕まる前にシュートあるいはパスをしなければならず、   そのためには、1人抜けたらそのディフェンスを横目に見ながらすぐ横を   すり抜け、相手の真後ろに回り込むような気持ちで行なうと良い。横ある   いは後から抱きつかれてもシュートまでこぎつけるくらいの気持ちと馬力   が必要である。  4,左へのフェイントが得意だから左ばかり練習する。確かに左は良く抜け   る。しかし、試合では5分もすると通用しなくなってくる。左しかない、   と読まれたらそのプレーヤーはもう終ってしまうのである。従って、左右   両方同程度に伸ばしてやる必要があるから、下手な方により力を注ぐべき   である。  5,必ず抜きたい方向と逆の方向に重心を移す。膝や上半身をうまく使って、   相手に「逆を抜くぞ」と思わせなければならない。相手が「左」だと思っ   て左足に重心を移した途端に右を抜く。パス練習なんかの時でも、常に逆   方向にステップを踏んでからプレーするくせをつけておく必要がある    どのチームでもディフェンスの前で「ハの字」を作る(足をハの字に開   く)練習を行なっているが、これはフェイントの基本である。しっかりし   た「ハの字」を作る選手がうまくなる。    また、グーっと膝をしぼり込み、その反動を利用して大きく強く横へ変   化するフェイントと、膝が少し伸びた状態の時にワンテンポ早く仕掛け、   小さくすばやく逃げるフェイントの両方を行なっているが、これは相手の   出方によって自由にこなせる(相手が早く前へ出れば早く小さく逃げる、   そのポイントがわかる)ようになれば、よりフェイントが面白くなる。       シュート・セットオフェンス  最終的に得点しなければ勝てないわけだから、シュート練習やセットオフェ ンスの練習もそれなりにこなしていく必要がある。  とくにシュート練習はじっくりと工夫を凝らして行なっていただきたい。各 自のポジションで「ここでボールをもらって、こんなジャンプをして、こんな タイミングで、相手のここからゴールのここへ打てば必ず入る」といったシュ ートが1つか2つできるまで、研究しながら練習すべきである。  もう1つは「キーパーと勝負する」ということで、四隅へ打てば必ず入ると 思ったら大間違いである。キーパーは打たせるところを開けているから、むし ろ開いていない方を狙った方が入りやすいし、顔横や股下や脇横などは初めか ら開いていない。打つタイミングと角度とコースを研究すれば、誰でも「必ず 入る」シュートを身につけることができる。    シュート・セットオフェンスでは次の4点を注意しよう  1,キーパーと勝負する  2,自分のマークを必ず見る  3,ディフェンスの間を狙う  4,まずシュートを狙う  1,は前に書いたとおり、キーパーから逃げていては決まるシュートも外し   てしまう。キーパーは最後の砦であるから意気込みも人一倍強く、それに   負けないだけの強い精神力が必要である。7mスローの確立がノーマーク   シュートの確立よりもぐっと低いのはそういった精神的な要素が大きく影   響するからである。    とにかく、自分の手や足の動き、空中でのバランスやタイミングでキー   パーがどんな反応を示すのかしっかりと把握していなければ、良いシュー   ターにはなれない。  2,相手の不意をつく(弱点を攻める)ことが攻撃の鉄則である。自分をマ   ークしているディフェンスの視線から息づかいまで、いい選手は細かく観   察している。   「あんなパス良く通ったな」「通りますよ、相手はあっち向いていたから」   ある有名選手との会話であるが、通るはずのないパスでも相手にカットす   る意思がなければ通る。いい選手は敵の一瞬のスキを絶対に見逃さないの である。  3,小さい選手がディフェンスの上から打つシュートには限界がある。やは   り、基本はディフェンスの間から打つということであり、そのように走り   込まねばならない。常にディフェンスの間へ走り込み、自分のマークとも   う1人のディフェンスを引き付けることによって、次のプレーヤーが動き   やすいようにしてやる。    ディフェンスの間からシュートするといっても、完全にノーマークにな   ることは少ない。ここでもタイミングやコースなどを充分に工夫する必要   がある。  4,「ポストが空いた!それっ」とパスしてもなかなか通らない。逆に「ポ   ストが空いた!けれどもシュートだ」この時パスは通る。ディフェンスが   「シュートだ」と思い、油断したときが狙い目なのである。(ポストへの   パスはいろんなやり方があるのでどうしたらカットされにくいのか研究し   て欲しい。バウンドパスはディフェンスの足元へバウンドさせるとカット   されにくいが、同様のことが他のパスにもあるはずである。)    従って、まずシュートを狙う。シュートを狙っているかぎり、マークは   釘づけになるので、みんながシュートを狙っていれば、ディフェンスは広   がるはずである。 最後に よく「スピードがもっとも大事ですね」という言葉を指導者の口から耳 にするが、その「スピード」の意味は身体的・肉体的能力における「速さ」 を差していることが多いと言える。そういう一般的なスピードももちろん 大事だが、もっと開発すべき「スピード」もあるのではないだろうか。 たとえば「コミュニケーションのスピード」である。集団プレー全体の 速さは、隣が相棒が何をしたいのかを正確に判断するスピードで決まる。 こうしたコミュニケーションのスピードは、徹底したコンビネーションプ レーの練習からも得られるが、社会生活や非常時の体験などから得ること もできる。要するに「互いを知る」ことが肝心なのである。 指導者は「スピード」にはどういう要素とどういう要素があるのかを徹 底的に分析して、それらを実際にゲームの中で機能させるには、どういう 練習方法・アプローチの仕方が考えられるのか、一生懸命工夫して欲しい。 それが日本人らしいハンドボールを創造することにつながると思うのである。    もう1点どうしても必要なものは、「闘争心」である。韓国ナショナルチ   ームの合宿所に入ったとき、選手育成のためのメニューが大きく掲げてあっ た。そのメニューの一番最初に書いてあって言葉が「愛国心・闘争心の醸成」   である。やはり、スポーツの原点は「闘う」ことであり、策を労するのは次   の問題だと思う。サッカーの国際審判員である岡田正義氏は、Jリーグの中   の日本人と外国人の一番大きな違いは何か、との問いにこう答えている。  「ゴールに向かう精神力ですね。ファウルを受けても倒れずに前に行きますよ   ね。今回のW杯でもユニホームを引っ張る場面が多かったんですね。日本で は引っ張られると自分で倒れちゃう。W杯クラスになると、引っ張られても 倒されても振り切って行くという力強さがあると思います。体力もあります けどね。繰り返しますが、世界のトッププレーヤーにはファウルをされても   前へ進む意志の強さがあります。そんなところが面白いサッカーにつながる んだと思います。」 これが世界のトップをを見てきた人の第一印象なのである。指導者は根本   的にまず、この辺をしっかり理解する必要がある。