特別寄稿

  第14回 世界女子ハンドボール選手権大会レポート

              立山アルミハンドボール部コーチ  飯山進 
       〜  遠征日記  〜
 全日本女子ハンドボールチーム監督より、日本リーグのスタッフ3名で今回の世界 選手権大会の分析員として行ってきてくれないかと依頼され、11月29日成田空港 発11時の飛行機でデンマークへと向かった。フライト時間は約11時間、フライト 中は依頼されていた分析のやり方などを分析員である、ブラザー工業監督 田中氏、 北國銀行コーチ 堀田氏等と話し合いながら費やした。ハンドボールの戦術の変容、 各国の強化の変化、今回特に分析しなければならないアジア各国の動き、いろいろな 話しをしているうちにデンマークの北欧の出入り口とも言われるコペンハーゲン空港 に到着した。我々3名はここで応援、視察部隊と別れ3名でオスロ空港行きに乗り換 えノルゥェーへ移動した。待ち合わせ時間を含め約19時間かけて目的地ノルゥェイ のリレハンメルに到着した時刻は現地時間で夜の10時であった。(日本との時差は
8時間遅れ)明日から先ず3日間、韓国、中国のいる予選Cグループの9試合を分析 する。
  11月30日 朝9時ごろからようやく日が昇り明るくなってきて、気温は−2 ℃北欧らしい外の感じとはうらはらに体育館は、熱気にあふれていた。体育館はリレ ハンメル冬期オリンピックのアイスホッケーの会場だった場所を体育館に改良された 所で、後ろにはオリンピックの開会式が行われたスキーのジャンプ場がそびえ立って いた。 第1試合 韓国対中国の対戦は、今大会で5位以内をキープしてシドニーオリンピ ックの切符を取っておきたい韓国が個人技の差で勝利。第2試合は、優勝候補のハン ガリー対最近めきめきと力を付けてきたブラジルとの対戦、出だしは高いラインでハ ンガリーの攻めを封じたブラジルが下馬評以上の戦いぶり、しかし、徐々に調子を取 り戻したハンガリーが貫禄勝ち。  第3試合は、1m90cm近くの選手が真ん中に壁のように何人も立ちはだかるDF をひくロシアと小柄ながらバネのあるプレーが売りのアフリカ大陸のコンゴとの対戦、 この試合は何の理由か分からなかったが試合開始時間になってもコンゴが会場に到着 しておらずどうなるのかと思われたが、何とか30分遅れ位でコンゴが一人二人と到 着しはじめ、到着した選手からアップを開始、7人揃ったら試合は始まった。後から 来た選手はベンチ裏でまだアップをしている者もいた、立会人も非常事態にベンチ裏 でアップしていてもあまりうるさく注意もしていない様子だった。 コンゴはボールを使ったアップをせず試合に入っていったのだが、チームにボール が無かった事が気がかりではあった。後から気付いたがコンゴチームにはボールは2 個くらいしか持っていない様子だった。後からも記すが、ボールを持っていないとい う事実は、戦術面にも多いに影響されていた。  試合は、宮本武蔵ではないが待ちくたびれたロシアが調子が上がらず、アップ不足 のはずのコンゴペースで試合は進んだ。が、力の差はやはり徐々に出てきてロシアの 格の差で押し込まれる事もあったが、大きい選手の足を止め、囲む様にエリアをつぶ してボールを展開させずロシアもてこずっていた。システムも幾つかあって試合状況 に応じて使っていた。先程のボールの持っていないという点で、コンゴのチームを一 言で言えば 「コンゴのハンドボールはパスをしない。」 機動力を使ったDFから 速攻で得点をかせぐ、速攻もできるだけ早くシュートまで行く。セットでは、攻撃の システムもきっちりとあるが、それがシュートまで行けないなあと思われるプレイで も個人技能で無理にシュートまで行く。パスで展開し、相手を崩すハンドボールと言 うより、少しでも早くシュートポイントまで持って行くという考えだと思われる。こ ういった戦術の為、攻防展開はすざましかった。いくら、体格の差、チーム事情があ ろうと、そう簡単には負けられないというハングリーな姿勢が感じられた。 12月1日今日の会場はイエビク会場。ここは、リレハンメルからバスで40分位 の街でリレハンメルより少し大きな街並みであった。体育館は、本物の洞窟の中をえ ぐり体育館にしたらしく、洞窟の入り口から入り、薄暗い通路を歩いていくと大きな ホールと横にはプールまであった。本当にここは、洞窟の中なのかと不思議な感じが した。 第1試合ブラジル対韓国の試合は、ブラジルが出だしから猛スパート、パワフルで ラインの高いDFで韓国に思う様にプレーをさせず、ブラジルペースで試合は進む。 韓国ベンチもたまらず、タイムアウトを取るなど勝敗の行方が分からないほど、韓国 はとうとう、なかなか思う様にプレイができず精神的に不安定と見たのか、エースの 元イズミのホン ジョンホをベンチに下げ流れを変える。代わって出た選手も少し戸 惑っていたが何とかペースを取り戻し韓国の辛勝であった。  ブラジルのDFは、最近の世界選手権ではどのチームでも高いラインでのDFシス テムは持っているが、組織的にもしっかりしていたし、何より個人がパワフルでしっ かりと自分の仕事を理解し守っていた。また、DFからの速攻は両サイドの飛び出し は素晴らしかった。ロシアも同じ事が言えるが、DFのシステムの中で、あるポイン トに相手選手が入りプレイをすると誘い込むようにプレーをさせここのポイントに入 りあのプレイをすればサイドは飛び出す、相手がキープすればできた穴をどうフォロ ーするかまで約束事がしっかりと徹底されており、速攻の判断、マイボールだという 判断の起点を少しでも早くさせていたと思われる。  第2試合コンゴ対ハンガリーは、前半はコンゴのDFにハンガリーが戸惑っていた が、後半からは完全なハンガリーペースの試合となった。ハンガリーが、なぜ前半戸 惑っていたか、それは、ハンガリーというチームはセットでのプレーの6割から7割が センター、チームリーダーからの指示でOFの残り5人が組織で動きDF崩してから攻 めるパターンで、前半はある程度DFを崩してはいたが、最終ラインで相手のフイニッ シュプレイを読み分厚く守るコンゴのDFに対し単調なフィニッシュのプレーは効かず ミスが出ていた。しかし、さすが優勝候補だけあって、確かにプレーの取り掛かりは形 式的に動いてはいたが応用力もしっかり持っており、前半途中からはしっかりと切り替 え単調なプレイはせず、しつこくボールを展開しノーマークをしっかりと作りフイニッ シュまで持っていった。後半はハンガリーDFも機能し始め次々と速攻を繰り出してい った。  第3試合中国対ロシアの試合はバスの関係もあり途中までしか見れなかったが、中国 がどうも調整不足なのか、個人技ばかりで得点をあげようとしたプレイが多く、ロシア のぬり壁の様なDFの前にミスを連発、自滅していった。しかし、中国のエースである ザイチャオはブンデスリーガーで、すきあらばどこからでもシュートを狙うというたく ましさはあった。また、他の選手も多分即席のチームなので個人プレイで得点するしか ないと思っているのか強引にシュートまで行き7mスローを誘うなど勢いのあるプレー が多かった。このチームがしっかりとした組織になると恐いチームだという感がした。  12月2日リレハンメル会場。今日は、楽しみでもあった第2試合目にロシア対韓国 戦がある。  先ず最初行われたコンゴ対ブラジルの試合は、コンゴがやはりシュートまで急ぐプレー が裏目に出て簡単に相手ボールとなりブラジルが得点の半分以上を速攻それも単独の1 次速攻であげる展開となりブラジルが予選通過に大きく近づいた。  第2試合、注目のカード、ロシア対韓国戦は、お互いにどのように得点していくのか、 どういった戦術を組んでくるのか期待していたが、意外な展開を見せた。ロシアの1m 90cm級の選手が並ぶ大きな分厚いDFに対し韓国の上のポジションである、1m70 cm前後左利き1人、右利き1人、もう1人の右利きのフローター1m65cmくらいの 3人が開始早々、次から次とロシアの壁を突き破りなんとロング、ミドルシュートを炸裂 させた。  だが、そのミドル、ロングシュートは、今まで見たロシアに対する他のチームと違う点 は、単発に簡単に打たされるシュートでは無い事である。ロシアのDFを、鋭い動きでか き回せて次から次へとボールを展開し、DFをフラフラにさせておき、フィニッシュのプ レーもDFの枝をしっかり交わし、GKと勝負できる状態を作ってからシュートを打って いた、データーを取っていたのだがロングの確率も高かった。確かに最後のシュートだけ を見ると素晴らしいものがあるが、それまでに達する動きがやはり大切だと確信した。ロ シアももう少し的の絞ったDFをして、動きを読んで守らなければ上のレベルでは厳しい と思われた。  試合は、OF,DFともにリズムに乗っていた韓国の圧勝であったが、気がかりだった のは、今日の韓国チームと昨日、おとといのチームとは、全然違うチームの雰囲気が漂い、 ひとつ、ひとつのプレイが違っていた。やはり強豪相手だと気合が違うのかと思っていた が、実はそこらあたりが現在の韓国チームの弱点だったと後から分かってきた。 今日見る限りでは、ベスト8入りはかたいと思われたが、デンマークへ移動して見れな かったのだが予選最終戦もハンガリーに対して決勝トーナメントでどこの枠を選ぶかとい う作戦もあるかと思われるがエースをベンチに外して、ミスが多く締まりの無 い試合だっ たと聞かされた。韓国が4点差で負けて予選グループ2位で決勝トーナメントに上がって いった。(後日の話しだが決勝トーナメントでは、後でも記すが日本に2点差で勝ったマ ケドニアに1点差で負けてしまいベスト16止まり、シドニーオリンピックの切符は取れ なかった。韓国チームには、百戦錬磨の選手が何人かはいるが、その選手達も精神的にも プレー面でも波がある。エースがブラジル戦では闘争心が見えずにベンチに下がったり、 代わって出た選手とのレベルがあまりにも大きすぎるし、トーナメントを戦っていくうえ での精神面、体力面でのコンディショニングの取り方、また、代表チームとしての士気の 向上、まとまり方も落ちてきたのではないかと思った。)  第3試合は、ハンガリー対中国の試合は、前半に中国のエースの怪我もあってハンガリ ーの貫禄勝ち。分析していたDグループの順位は、1位ハンガリー、2位韓国、3位ロシ ア、4位はブラジル、中国とコンゴが予選敗退となった。今日で分析員としての世界選手 権視察は終わりだが、明日から全日本が試合を行っているデンマークへ移動して全日本の 戦いぶり、また、優勝候補デンマークの地元での戦いかたを視察しに行く。  12月3日今日は、リレハンメルからデンマークのイエビクという街に移動する。リレ ハンメルから朝7:00の電車に乗りノルゥェーのオスロへ、オスロでしばしフリーで観 光し、オスロ空港からコペンハーゲン空港へと移動、コペンハーゲンで食事を兼ねてショ ッピングをする事となった。コペンハーゲンの街を歩いていると偶然、全日本の応援部隊 と遭遇し、同じホテルへ向かうという事で、電車をキャンセルし応援部隊のバスに便乗し て移動する事にした。ここからが悪夢の始まりである。  コペンハーゲンの空港に着いた頃は、小雨だった天候がバスで出発する夜の7時頃には 大雨で台風並みの突風が吹きデンマークでも100年に1回あるかないかという天候とな ってしまった。コペンハーゲンから、イエビクまでは、日本の明石海峡大橋ができるまで は世界一だったと言われる橋を渡らなければいけない。その橋が閉鎖しているとの情報が バスが出発してから入ってきた。しかたなく、橋のゲート付近まで移動する事にした。そ こまで行く間もバスは左右に揺れ、とうとうバスのドアまで風の影響で勝手に開閉する始 末。雨、風はやむ事は無く、1時間で着くはずのゲート前まで3時間かかってしまった。 この天候でゆけば、橋のゲートは開かないという事で、サービスエリアで夜中の1時まで 待機する事になった。しかし、1時になってもゲートは開かず、バスの中で仮眠する事に した。ようやくゲートが開いたのは朝の4時半、少しは雨風もおさまったが、やはり橋の 上という事もあり風でもう海に落ちるんじゃないかと思ったほど、ようやく橋を渡りホテ ルに近づいてきたが道には大木が倒れていたり、タンクローリーが倒れていたりもう道な き道を行く感じでホテルに着いたのは朝の7時、日本から飛行機でデンマークへ来るより も時間がかかり疲れた。しかし、そうも言っとられず今日は日本が予選突破する為の大事 な試合のドイツ戦が行われる、12月4日である。ホテルにて休み、体調を調え試合会場 へと向かった。  ノルゥェーの会場から比べれば少し小さく感じたが、中はハンドボールの為に作られた 感じがするくらいに調度良い広さであった。  12月4日の日本対ドイツ戦は、日本が足を使ったDFでドイツの攻撃をふうじようと したが、要所でボールをキープされてフリースローが取れず、長く展開されてしまうと簡 単にノーマークができていた。アタックポイントで、日本はしっかりと足が動きアタック はしているのだが、やはり体で負けていてアタックしても相手には効いてない状態である。 正直な話し大人と子供である。体格では、本当にありありと差が出ている。しかし、技術 はどうかと言うと体格ほどの差が感じはしない。ただ、何回も言うが、コンタクトのある 程度許されるハンドボールで体があれだけ違うとやはりハンディであると思った。  ドイツというチームは特に無理やり押し込んでくるプレーが多く、シュートも男子並み のスピードで打ってきて体格の差を何かで埋めなければ勝てないだろうと痛感した。  やはり、技術はもっともだが、体力、持久力、筋力のフィジカル面をもっと強化し、体 格の差をカバーできるようにしていかなければ日本も上で戦うには難しいと思われた。後 半、集中力、気力のなくなった日本に対しドイツが怒涛の攻撃で圧倒、終わってみればド イツの圧勝で終わった。 日本は最終日でアルゼンチンに勝っても決勝トーナメント進出できなくなった。全日本 スタッフと打ち合わせした後いったんホテルに戻り少し休んだ後、他の人達はもう休まれ  る方がほとんどだったが、私はせっかくデンマークへ来てデンマークが地元で試合してい るのだからホームでのデンマークの戦い振りを見にもう一度体育館へ戻った。  先ほどの日本対ドイツ戦とは体育館の外から違っていた。道路は車で渋滞、体育館のロ ビーは人だらけ、なんとか体育館の中にたどり着いたが、立ち見席の券ではあったが立ち 見する場所も無い、この体育館はハンドボールするには調度良いと言っていたが、デンマ ークの試合をするには全然小さい。デンマークでハンドボールの人気は凄いとは聞いてい たがこれほどまでとは思っていなかった。  シュート決めた時に決めた選手の名前を会場全員が合わせて叫び、みんなルールを詳し く知っていて審判が微妙なジャッジをするとブーイング。80歳近くのおじいちゃんから 小学生までみんなが揃って応援している。感動したのは、チームが劣勢の時に応援にも力 が入り選手に力を与えている。そして、試合終了間際ここが勝負所という場面で応援も最 高潮、この人達は本当にチームと一体化していると体感した。この場所にテンションが低 い状態で居るのは不可能である。デンマークは内容は技術的にはあまり良くなかったと思 われるが、地元の後押しもあり勝利をおさめた。  12月5日最終日 日本対アルゼンチン戦を観戦。立山アルミの山崎理恵も8得点を あげる活躍で日本は快勝した。これで日本は1勝1分3敗で予選敗退となった。ファンコ ーチを迎え伊藤監督、荷川取コーチ新体制で進んだ全日本も予選敗退となり結果は出なか ったかもしれないが、今後の日本の目指す方向の第1歩にはなったのではないかと思われ る。  10試合以上試合の見させてもらったがいろんな戦い方、作戦、技術見て指導者として 経験論だけではなく常に研究し続けないと変化にはついていけないんではないと思われた。 最後に全体の感想として、ハンドボールの醍醐味みたいなものを感じたのでそれを少し書 かせてもらう。  やはりインパクトのあるハンドボールのゲームというのは、目だけで感じていてもだめ で、鼻、耳、触れる、味わうといった体のアンテナがぶるぶると感じるくらいではないと 印象には残らないと思った。確かにヨーロッパでハンドボールが人気があるが日本ではま だまだメジャーになれない。いろいろな理由があると思うが、わたしが今回感じたのは選 手とサポーターが一体となる事、選手とサポーターが同じこの試合に勝とうという目標で の同じ体育館に立っている事、技術がどう、演出がどうという問題よりも同じ勝とうとい う目標であったら、感じる事は一緒はずである。選手がいいかげんなプレイをすればブー イング、必死に勝とうとするプレーを続けていれば自然とサポーターも力が入ってくる。  12月4日のデンマーク対アンゴラの試合でこの日のデンマークはあまり調子が出ずア ンゴラのペースで試合は進み、デンマークが初黒星となるかと思われたが、後半残り10 分頃から一気にデンマークの猛攻、逆転し突き放しにかかるところで会場も盛り上がる、 その時観覧席にタンカーが運ばれる。なんと試合に興奮しすぎたのか、おじいちゃんが心 臓をおさえながら運ばれていった。特に救急車で運ばれなかったから大事にはいたならな かったのだと思うがこれくらいエキサイトしているんだと驚いた。一つのボールを必死に 追いかけ、必死に守り、必死に取り組む姿勢で充分観客の心をとらえる事ができてサポー ターと一体になれるんだなあとしみじみ感じた。やはり、今後指導していくなかで立山ア ルミの試合を見に来て観客から本当のサポーターになってもらう為にも、一つ一つのプレ ーがサポーターの体のアンテナがぶるぶると感じるくらいのインパクトを与えられるチー ムを目指し、必死に取り組み努力していこうと決意した次第である。    12月6日コペンハーゲンより空路成田空港へ帰国の途、記す。                日本到着12月7日午前10時半・・