特別寄稿

 

        スポーツの意義
元シルバースタークォーターバック 東海 辰弥
 スポーツをする時に、常に自問自答しなくてはならないのは、「何を目標にする か」ということである。その答えが見えないままでは努力の方向を見誤ってしまう。 目標とは違う方を向いた努力をいくら重ねても、それは、望んだ形では結実しない。 せっかくの努力も無駄になってしまう。  そんな遠回りをしないように、目標を定めることこそは、まず第一にしなくては ならないことだ。  さて、一般に論じられるスポーツの目標と言えば、まず「勝つこと」が挙げられ るだろう。スポーツそのものが持つ性格からして、勝ち負けにこだわらないなど不 可能に近い。  仮に「勝つこと」を具体的な目標にした場合、どんな風にそれを達成していくの か、考えてみよう。  「スポーツバカ」という表現があるが、勝つために努力することは、すなわち、 がむしゃらに一生懸命努力すること、と思っている人が多いのではないだろうか。  しかし、肉体をいたずらに酷使しても、その分だけ技術が向上するとは限らない。 むしろ、他のことを考える気力を喪失して、目標を達成するためのアプローチに考 えが及ばなくなってしまう弊害のほうがはるかに大きい。  練習をしたら、必ず一旦立ち止まって、自分の実力やチーム状況、対戦相手の様 子などの現状を把握することが不可欠である。そのためには、疲れきってヘトヘト であってはならない筈だ。  正確に現状を認識すると、問題点が見えてくる。ここまでは、誰でも慣れればす ぐにできるようになる。大切なのは、ここから問題点を細かく分析して、ありとあ らゆる角度から解決のためのアプローチを考えることである。これには多少の時間 を要する。試行錯誤するしかない。  そのうちにだんだん見えなかったものが見え出し、出来なかったことができるよ うになってくるのだ。  目標を決めて努力する。そして今の自分を認識して分析する。長所は伸ばし、短 所は改善する。これは、新しい自己の発見であり、自己の育成である。 スポーツをすることの意義とは、まさにここにあると思う。 こうしたプロセスで物事を考えることは、人生のすべてに活かされると信じてい る。       東海辰弥 略歴   1964年   富山県氷見市生まれ   1984年   高岡高校を経て京都大学農学部入学         アメリカンフットボールを始める   1986.87年  名クォーターバックとして京都大学を2年連続日本一に導く   1989年   アサヒビール入社、シルバースターに加入社会人日本一となる   1992年   クラブチームとして初の日本一となる   1993年   連覇   1994年   引退