特別寄稿
 

 

  世界トッププレーヤーの
         個人攻撃技術に関する研究
      〜バックコートプレーヤーのシュート技術に着目して〜

                西條中学校ハンドボール部監督 小川 友康 


                                                                                    
             
【緒言】
 ハンドボールの攻撃方法には、大別して速攻と遅攻がある。攻撃の多くは、遅攻
(セットオフェンス)によるものであり、セットオフェンスが大きなウェイトを占
めている。最終的にはシュートの成否が勝敗のカギを握る。
 そこで、セットオフェンスを成立させるために重要とされる個人攻撃技術(シュ
ート、フェイント、パス)のうちシュート技術に着目し、身長差による技術特性を
比較、考察してみたい。

【研究方法】
 熊本世界選手権大会の個人得点、フィールドゴールがトップ10に入る選手を4人選
出し、観察項目別に分類し集計をした。
 また身長差による比較については身長が全チームの平均身長(188.3cm)より低
い者と高い者を二人ずつに分け、観察項目別に分類し集計をした。

【観客項目】
 1、ステップパターン
 (1)ステップ(2)ジャンプ(3)ランニング(4)スタンディング
 2、歩数
 (1)0歩(2)1歩(3)2歩(4)3歩
 3、バックスイングの方法
 (1)回転(2)ダイレクト(3)L字(Lの字に腕を引き上げる)
 4、フォワードスイングの方法
 (1)サイドスロー(2)アンダースロー(3)オーバースロー
 5、上体の使い方
 (1)ノーマル(2)プロンジョン(3)利き手側(4)非利き手側
 6、シュートタイミング
 (1)ノーマル(2)クイック(3)セーブ
 7、シュートの成否について
 (1)ゴール(2)枠外(3)キーバーによるセーブ(4)DFの枝に当たる

【結果および考察】
 1、ステップパターン
   高い選手はジャンプシュートがほとんどであったが、低い選手はステップ、ラ
 ンニングシュートの割合が高くなった。低い選手はシュートに至るまでのフット
 ワークバリエーションが豊富である。

  バックコートプレーヤー
   ジャンプ87% ステップ9% スタンディング3% ランニング1% 
  高い選手
   ジャンプ90% ステップ7% スタンディング1% ランニング2% 
  低い選手
   ジャンプ83% ステップ12% スタンディング0% ランニング5%

 2、歩数 
  高い選手、低い選手ともに2歩以下のシュートが多かった。3歩のシュートは
 高い選手(11%)低い選手(17%)と、低い選手の方が割合が高かった。低い選
 手は歩数を有効に使うことによって、攻撃移動範囲を広げていることが伺える。

  バックコートプレーヤー
   3歩14% 2歩58% 1歩27% 0歩1%
  高い選手
   3歩11% 2歩59% 1歩27% 0歩3%
  低い選手
   3歩17% 2歩56% 1歩27% 0歩0%

 3、バックスイング
  身長差の比較では、高い選手ほどL字型の割合が高く、低い選手は回転中心と
 なっていた。

  バックコートプレーヤー
   回転71% L字28% ダイレクト1% 
  高い選手
   回転60% L字38% ダイレクト2%
  低い選手
   回転82% L字18% ダイレクト0%

 4、フォワードスイング
  高い選手はオーバースロー(98%)がほとんどを占めたのに対し、低い選手は
 オーバースロー(86%)、サイドスロー(13%)と、サイドスローによるシュー
 トの割合が高くなった。
 これは、シュートを打つタイミングとDFとの距離が大きく影響している。

  バックコートプレーヤー
   オーバースロー93% サイドスロー6% アンダースロー1%
  高い選手
   オーバースロー98% サイドスロー1% アンダースロー1%
  低い選手
   オーバースロー86% サイドスロー13% アンダースロー1%

 5、上体の使い方
  ノーマルのシュートがともに高かったが、低い選手は上体を倒して打つシュー
 トが、高い選手より割合が高くなった。

  バックコートプレーヤ一
   ノーマル 84% 非利き手側 13% 利き手側 2% プロンジョン 1%
  高い選手
   ノーマル 91% 非利き手側 8% 利き手側 1% プロンジョン 0%   
  低い選手
   ノーマル 76% 非利き手側 19% 利き手側 2% プロンジョン3%   

 6、シュートタイミング
  高い選手はノーマル(49%)、クイック(38%)のシュートが高く、セーブし
 たシュートは少なかった。低い選手はバランス良く3つのタイミングを打ち分け
 ていた。

 7、シュートの成否について
  高い選手、低い選手ともに的50%はゴールの中だった。高い選手は枠外(15%)
 キーバーによるセーブ(25%)、DFの枝に当たる(9%)だったのに対し、低い
 選手は枠外(10%)、キーバーによるセーブ(32%)、DFの枝に当たる(6%)だ
 った。

【結論】
 身長差の比較で共通していたところは、2歩助走でのジャンプシュートが多い
点。違う点は、バックスイングは高い選手には比較的L字型のケースが多く、低い
選手は回転型の割合が高いということである。
 また、フォワードスイングは高い選手は腕の変化ははとんど見られないが、低い
選手はサイドスローも見られ、ある程度腕の変化を利用してシュートを打っている。
 上体の使い方から見ると、高い選手は変化させず、低い選手は変化させながらDF
をかわすシュート技術を持っていることが伺える。
 シュートタイミングは、高い選手はセーブしたシュートが少なく、低い選手はバ
ランスよくシュートタイミングを1本1本変えながらシュートを打っている。
 全体的には、高い選手は身体的優位性から、オーソドックスなシュートスタイル
で勝負することが多いが、低い選手はフットワークやタイミング、腕や上体の使い方
まで、いろいろと工夫しながら勝負していると言える。